仏典童話、慌ててウサギ

このお話はとくに、右にならえの日本人に言えることです。
年末にしても、みんなが行っているからいく。集まって楽しくしてるから一緒にやる。そこに「幸せになっている人」はいないのです。
「正しい道」とはなにか、そろそろ考えるべきです。
※仏典童話
昔々のお話。お釈迦様は、弟子たちや衆生に数多くのいろんなお話を残しました。
さまざまな者に生まれ変わって生を受けている。
そのときの出来事を話してあげました。そのときの通称をボーディサッタ(菩薩)といいます。
「慌てウサギの話」

インドにベナレスという国で、ライオンに生まれたボーディサッタは森に住んでいました。

そして、はるか西の海の近くにヤシの林があり、ヤシのやぶのかげに一匹のウサギが住んでいました。
ある日のこと、ウサギは葉かげに寝転んでこんなことを考えていました。
(もし、この大地が壊れたらわたしはいったいどうなるだろう)

そのとき、よく熟れた大きなヴァルヴァの実がドサリ!
、とウサギの後ろに落ちました。
ウサギは、(大地が壊れる音に違いない!!)
と、ピョン!と跳ね起きて後ろも見ずに走り出しました。

仲間のウサギは、「慌てウサギ」が顔色変えて飛んで行くので、
「どうしたのですか?」と聞くのですが、「そんなこと聞かないでくれ」と言って、走り続けました。

他のウサギ達も、「いったい何事です?」「いったい何事です?」
と言いながら後から、後から、ついてきました。

「慌てウサギ」は、立ち止まることもせず、振り向きもせず、
「大地が壊れるところだ!!」と言いました。
それを聞くと他のウサギ達もついてきました。

そうして、しまいには十万匹ものウサギが一緒になって走っていきました。
次第に別の動物も一緒になり、シカ、イノシシ、スイギュウ、ヤギュウ、サイ、トラ、ゾウなどが、
「何事ですか?」「何事ですか?」
「大地が壊れるところだ。」「大地が壊れるところだ。」

と、声を一緒にして逃げ出しました。
しだいに列は長くなって、とうとう百キロ以上にもなってしまいました。

そのとき、ライオン(ボーディサッタ)が、わき目もふらず逃げていく者に出会い、そのわけを尋ねてみました。
すると、「大地が壊れるところだ!」というのです。
(大地が壊れるなんていうことはない。
きっとこれは、皆、何か勘違いをしているのだろう。
わたしが力を貸してやらなければ、あの獣たちはいまに死んでしまうだろう。)

そう思ったので、ライオンはものすごい速さで駆け出し、
みんなより先回りして、山のふもとに立って、力強い声で「三度」うなり声をあげました。
それを聞くと、獣たちは震え上がり、走るのをやめました。

ライオンは、獣たちの群れに割って入り、
「お前たちは、なぜ逃げて行くのかね。」と尋ねました。
「大地が壊れるところだからです。」とそれぞれに答えました。

「誰か、壊れるところを見た者はいるのか。」とライオンが尋ねると、
「ゾウがその事を知っています。」と言う者がいました。
ゾウは、「わたしは知りません。トラが知っています。」
と言いました。

トラは「サイが知っている。」
サイは、「ヤギュウが知っている」
ヤギュウは「スイギュウが知っている」
スイギュウは「イノシシが知っている」
イノシシは「シカが知っている」
シカは「ウサギが知っている」と言いました。

そこでウサギ達に尋ねると、仲間の一匹を指して、
「このウサギがわたしたちにそう言ったのです。」と答えました。

そこで、ライオンは、
「ウサギさん、あなたは大地が壊れるところだ。というがそれは本当かね。」
「はい、本当でございますとも。わたしはそれを見たのです。」と「慌てウサギ」は答えました。

「それを見たとき、あなたはどこにいたのかね。」

「わたしは海の近くの、ヤシの林の中で寝転んで、
(もし大地が割れたら、すぐさまどこかに逃げよう、と考えて)おりましたら、ちょうどそのとき、わたしの後ろで、大きな大地の壊れる音が聞こえたので、わたしは逃げ出したのでございます。」

ライオンはそれを聞いて思いました。
(あのあたりには、熟れた大きなヴァルヴァの実が成っている。
大きな音、というのはそれを聞き間違えたに違いない。
ひとつ、行ってたしかめてみよう。)
そう思い、獣たちの群れに言いました。

「皆よ、心配しなくてもいい。わたしが、この者と一緒にその場所に行って、本当に大地が壊れだしたのかどうか確かめてこよう。
わたしが帰ってくるまでここで待っていなさい。」

そういうと、ライオンは「慌てウサギ」を背に乗せて、ものすごい速さで駆け出し、ヤシの林にたどり着きました。

ウサギが、大地が壊れる音を聞いたという場所にきてみると、
大きなヴァルヴァの実が転がっているだけでした。
そして、ライオンはよくよく地面を確認し、
またウサギを背に乗せて、獣たちのもとに帰ってきました。

そして、皆にみてきたことを説明して聞かせ、家に帰らせました。
もし、このとき、ライオン(ボーディサッタ)がいなければ、皆、走り続け海に飛び込んで死んでしまっていたかもしれません。

みんなは、そのことに気づき、ライオンに感謝したのでした。
おしまい。